東京デザイン散歩タイトル

─ 第9回 玄関の松─


OFFICE CUBE代表 水野詩都子

このコーナーでは、東京の街角の普段の姿や何気ない風景の中に、私達の日常の生活デザインの原形をたずね、気ままな散歩を楽しんでいます。

唐突ですが、今回のお題は「玄関の松」です。お正月の門松との関連で?と言うわけではありません。
実は私は日頃から、さまざまなお宅の門口でなぜか「玄関の松に愛着を感じるようになり、いつか特集を組みたいと思っていたのです。先頃荻窪から中野に引越しましたので、今回は記憶がホットな内に、荻窪のほんの一部の玄関の松を鑑賞してみたいと思います。

■由緒正しい立派系

そもそも、松ほどそれぞれの姿が個性的な樹木もそうそうはないでしょう。例えば海岸の松林等を眺めても、一本一本が個性を主張して勝手な枝振りをのばし、その面白さが昔から日本人に好まれてきました。

ましてやその松を庭や玄関に植えるとなったら、その家の主人は一層、自分の家だけの個性豊かな姿を求めようとするでしょう。松はそれ自身の勝手な成長の面白さを楽しむこともできれば、主人の好みにあわせて整形することによっても趣の深い姿を見せてくれます。

現在のJR荻窪駅の発端は、明治24年に私鉄甲武鉄道の一駅として開設された様ですが、周辺が住宅地として開けたのは大正に入ってから、この鉄道が中央線として国有化され、当初は東京駅周辺に勤務する主に官僚・高級公務員等を対象として整備されたようで、その後文化人も多く住み着きました。そのなごりは今でもかなり残っていて、少し駅から遠ざかると古い住宅地のしっとりと落ち着いた街並が楽しめます。

そしてその中に多く散見され、日本情緒豊かな彩りを添えているのが「玄関の松」です。当時のままのような瓦屋根の日本家屋にしつらえられた歌舞伎門に、これほど相応しい樹木はないでしょう。ここでは丹誠込めた枝振りの松が、建築の重要な一部分として、家にすばらしい個性と風格を与えています。

こちらはやや現代風のモダンな歌舞伎門ですが、あまり手をかけ過ぎず、のびのびと育った松が良く似合っています。
実は先ほどの写真の一帯およびこの写真の一帯は別の場所ですが、それぞれ古いお宅、建て替えたお宅等入り交じって落ち着いた街並となっており、共通点は隣どうし軒並み個性的な「玄関の松」が植えられていることです。このような傾向は街のところどころに見ることができ、おそらくよく手入れされた「玄関の松」が当時の中流家庭の一種のステイタスの表明だったような気がします。
ところで昔から「松」 は「待つ」 に通じるとは良く言われることで、和歌や俳句 、戯作、物語り等でも 大切な人を待つ 時の掛け言葉として「松」が使われてきました。門松等もそうですが「玄関の松」には、お待ちする、心からお迎えする、歓迎する、と言った意味も込められているようで、枝振りもそのような気持ちも込めて姿が整えられているようです。

こちらの写真は実は荻窪ではなく、付近の西武新宿線沿線の一角ですが、風格ある門構えに余りにも良く似合った松が整備されているので掲載してみました。まさしく、お客様を心から歓迎する風情の枝振りの、明るくすがすがしい姿です。

これらのように、松は単独よりも周辺の豊かな緑の中に置くことで、より個性がいきいきと輝いて見えます。

■松が主役の玄関系

しばしば見られる光景として、このように「玄関の松」ではなく「松の玄関」のようなお宅があります。
主人が松を愛する余り、人間の出入りよりも松の居心地よさの方が優先された形になっています。
ご苦労も多いのでしょうが、なんとも個性的な門構えになっていて、なんとなく微笑ましく楽しい気分にさせられます。

■モダンなあしらいの松

ところで最近、ちょっとモダンにアレンジした歌舞伎門風の門をところどころで見るようになりましたが、そんなところにもさり気なく小さな松をあしらっているのが左の写真です。あまり作り過ぎない自然な風情の生け垣と、ちょっと小枝を差し掛けた松が、風雅な門によく調和しています。

右の写真は、洋風の軽やかな門扉の両側に対で松が植えられた風景です。ここでもあまり作り過ぎず自由にのびた松が、他の植栽にない新鮮なイメージを与えています。

●左は、透かし格子の引き戸だが、中の建物は現代風。

●右のお宅も、門扉の中は洋風のガーデニングされた庭に現代風の家

(2005. 2)

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