東京デザイン散歩タイトル

─ 第5回 上野公園裏道から不忍池入口 ─

OFFICE CUBE代表 水野詩都子
地図 このコーナーでは、東京の街角の普段の姿や何気ない風景の中に、私達の日常の生活デザインの原形をたずね、気ままな散歩を楽しんでいます

今回からはがらりと変わり、上野公園とその周辺を時おり散策してみようと思います。この一帯は、江戸時代から近代迄の歴史が重複する場所としてかねてより興味があった所ですが、今回は神社仏閣フリークの私ならではのまさに独断と偏見的散歩をご紹介しつつ 、前々から気になっていた旧岩崎邸に行ってみることにします。

初回はまず、東京文化会館の左手の森の中の小道から入って神社仏閣を廻りつつ不忍池に向います。

■小鳥のさえずる真冬の森からスタート

スタート地点 さわやかに晴れた正月の土曜日の朝、どの施設に向かうのかJR上野駅の公園口からいっせいに人々が吐き出されて行きます。急に時間ができて訪れた私は、駅前掲示板で各美術館の展示会に興味を引くものがなく、せっかくなので前々から訪れたかった旧岩崎邸をめざすことにして、案内マップで道順の検討を始めました。
今回は少々マイナーなルートから上野の森を味わってみることに決め、東京文化会館を左手に廻り込む森の小道に踏み込みます。青空に葉を落として大きく拡がる木々のこずえが美しく、小鳥のさえずりや踏み締める土の感触がなんとも清々しく感じられて、カーブした道の行く手に、ささやかな期待感がふくらみます。

■清水観音堂の風雅な建物

清水観音堂側面短い森の道を抜け、不忍池に向かう大通りをつきって向いの森に入っていくと、その奥に清水観音堂のおもむきある背面が望めました。不忍池に面している建物の右側面に回り、京都清水寺の舞台造りを模した建物の、高床や優美な屋根のそりを見上げるその前には、おみくじがびっしり結んでありました。
清水観音堂正面さていよいよ舞台へとあがっていきます。左は写真4枚の合成でやや不自然ですが、魚眼レンズ効果を出してみました。拝殿はひさし裏に美しい細工をもち、しとみ戸をあげた朱塗りの優美な正面と、白木の清々しい舞台とのコントラストがひときわ風雅で、正月気分を盛り上げてくれます。
清水観音堂内奉納額江戸末期の彰義隊と官軍の戦いでも消失を免れた重要文化財ということですが、拝殿内の右側面にはその戦いの記録が伝統的な「板絵」の手法の奉納額として掲げられていました。図の左上がこの清水観音堂であるらしく、白刃を交える生々しい人の群れに改めてこの山がつい百年前血に染まった歴史を思い起こさせられました。
清水漢音堂舞台遠景この建物は、すぐ下の弁天池ぞいの道からも優美な姿が眺められます。おそらく不忍池からの眺望を意識して建てられたものでしょう。

 

■花園稲荷の鳥居と穴稲荷

花園稲荷大鳥居清水堂の舞台を右に見上げつつ下の通りを進むと、花園稲荷の鳥居のトンネルに行き当たりました。石垣を下りながら右手奥の本殿へとリズミカルに切れ目なく続く赤い鳥居をくぐっていく行程は、なんとも懐かしい日本的な原風景であり、原体験であると言えるでしょう。
花園稲荷小鳥居隣の五條天神社にもある石の大鳥居の威圧的な風格にくらべて、赤い木製の連続鳥居は庶民的な持ち寄りの鳥居でありながら、まさに大鳥居に負けない強力な異界へのトンネルとして、少々オドロな独自の磁場をつくり出していました。そしてこの鳥居と交互に並ぶ赤いのぼり旗もまた、この独自空間演出の必須アイテムなのでした。

花園穴稲荷2花園穴稲荷1ちなみに、天海僧正が寛永寺を建てた際に埋められた穴に住んでいた狐をまつる「ほこら」の礼拝所「穴稲荷」が、現花園稲荷(不忍池に向かって右手)の元社として左手の山腹に温存されていました。岩で囲まれ薄暗闇に閉ざされた狭い礼拝空間は、異様な霊気を感じさせ、社殿はごく質素、右手の壁に狐穴がまつられてこまごまと真新しいお供物が並べられ、商人・職人・花柳界等の熱心な信仰を集めてきた流れが今も絶えないようです。この日も参拝者が滞ることはなく、岩の上にもろうそく立てにも、いくつものささやかな灯明が捧げられていました。

■五条天神社

五条神社正面花園稲荷に隣接して、五条天神社は白木の美しい社殿が印象的でした。重層する屋根ひさしは重厚ながら、石段や渡り廊下と連動する水平線ののびのびした拡がりをもち、重苦しくありません。
五条神社側面側面からは、らんかん付き外廊下や巻き上げ御簾、内側から押して持ち上げる形式の細かい格子のしとみ戸など、寝殿造り風の風雅な構造が、白木の香しさでささやかなタイムスリップを誘っていました。

ちなみにここは、室町時代からの風習「宝船神事」を今に伝える唯一の神社と言うことです。正月または節分にこの神社特有の宝船の絵を枕の下に敷いて寝て、凶を払い吉を迎える習いがあるそうですが、この案内文に紹介されていた歌が味わい深いので掲載しておきます。上から詠んでも下から詠んでも同じと言うのが心憎いですね!

  ながき夜の とをの眠りの みなめざめ 波のり船の 音のよきかな

■不忍池

 不忍池入り口から池の中央を望む(連続合成)

不忍池入り口次回はいよいよ不忍池に踏み出していきます。そこには意外と新鮮な風景が待っていたのです。


(2004.1)

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