東京デザイン散歩タイトル

─ 第2回 虎の門(2) ─
文化庁と財務省



OFFICE CUBE
代表 水野詩都子

地図前回始まったこのコーナーでは、私達の日常生活を彩る生活文化やモノたちのデザインの原形を、街角の何気ない風景の中に感じ取りながら、東京という街の普段の姿をデザイン的な側面から楽しんで歩きたいと思っています。

前回は、私の生まれ育った「虎の門」からスタートしようということで、33年前、超高層に先鞭をつけて建設された高度経済成長の象徴、霞ヶ関ビルを取り上げましたが、今回はこれに隣り合ってくっきりと対比をなす一角を見てみたいと思います。


■虎の門交差点から桜田方向へ

霞ヶ関ビル 上の地図を見ていただくとお分かりのように、虎の門交差点と言うのはちょうど地下鉄銀座線の虎の門駅に接し、地下で日比谷線と交わっていますが、JR新橋駅方面からくるとこの交差点越しに、真正面に霞ヶ関ビルが立ちはだかっています。

この霞ヶ関ビルと、その手前の国立教育会館も、高度成長期初期の建物の一大特徴=大量生産的で実に無個性な姿を見せていますが、これに接してすぐ右隣からハッキリ対比的なゾーンが始まっています。これが次の文化庁〜財務省の一角です。


 

■文部科学省/文化庁 昭和8年、大蔵省営繕管財局設計、大林組施工

文部科学省

2週間サイト更新をしない間に省庁再編が実施され、文部省だったところは、文部科学省/文化庁となった様ですが、内容も新しくなるのでしょうか?

私の子供時代からすでに古色蒼然としていたこの建物ですが、交差点に君臨しあの独特のレンガの低層棟を拡げた姿は、ファサード(正面)の列柱や、大きな張り出し屋根の下の真っ暗な入り口と相まって、子供の目には威圧の象徴意外の何ものでもありませんでした。
文部科学省2実際、昭和8年竣工で大蔵省の設計といいますから、多かれ少なかれ、東大安田講堂にも通じる権威主義的な画一教育のトリデを意図していたことでしょう。霞ヶ関ビルと前後して隣にできた教育会館ですら、いくらかその延長的な雰囲気を持っています。

しかしこうした旧文部省の建物のイメージも、霞ヶ関ビル以来しだいにのびやかな現代建築に囲まれるようになり、急速に色褪せたのも事実です。「旧文部省」は積年の排気ガスも浴び続け、すっかり黒ずんでいましたが、省庁再編に合わせてきれいにお掃除され明るくなった姿を改めて見ると、ちょっと小さく頼り無くなってみえ、これからの役割を探しあぐねているような、いくらか親しみも湧く印象を受けました。


 

■財務省/国税庁 昭和13年大蔵省営繕管財局 大倉土木施工

財務省正面省庁再編の一つの台風の目が財務省ですが、その「旧大蔵省」の建物は「旧文部省」とは大いに異なり、玄関に明るい印象のシンプルな柱灯付き3連アーチを使っている他は、ひたすら実務的なグレイの四角い低層棟が巨大な両翼を拡げています。地味ですが低くゆったりした大きさで威圧しており、知的な印象があります。
 

財務省庭 財務省生け垣 ここで私が、訪れる度に密かに楽しんでいるのが(あ、書いてしまったら密かではありませんね!)写真の杉木立とその下のミニミニ回遊式庭園風の空間です。

灰色の巨大な事務的建物が長く水平に横たわっているのに対して、その前面を遮って続く高い断続的な杉木立が、クールな調和を作っています。威厳を示そうとしているのか、親しみを持ってもらいたいのか、日本の心を表現しているつもりなのか知りませんが、いつも作り過ぎず、さり気なく手入れが行き届いていて、場所が場所だけにちょっとした異空間のおもむきがあり、目の角に入れるだけでも心が和みます。

今この写真にあるのは、正面玄関すぐ左手から始まっている部分ですが、大切にわらで巻かれた樹木、白砂はおそらく流れをあらわし、小滝か水しぶきをあらわす石が置かれていて…。遠景の旧文部省も、こうなるとしっくりと調和しています。
やはり灰色の権威的な建物が、巨大な無機質的物体としてむき出しになるのを緩和しているのでしょうか?


■この付近で楽しめるいくつかのパースペクティブ

国会前坂道霞ヶ関ビルと文化庁(旧文部省)の写真を連続して見てみると、虎の門交差点の霞が関から赤坂方向へのパースペクティブの面白さは、しょっちゅう工事中という難点はありますが、お分かり頂けるでしょう。
ここで旧文部省前から旧大蔵省に移動する際に、ぜひ目を向けてほしい小道をご紹介します。
何のことはない、両省の間に立って「三年坂」を少し上ってみるだけですが、ここは正面の建物を除けば、もしかしたら戦前から殆ど変わっていないたたずまいなのではないでしょうか?交通激しい交差点のすぐ横なのに、子供の時から、何かここだけ時間が停まったような特別の雰囲気で好きでした。ここを上ると小さな草野球のグランドや草原があり、なんと子供同士でおにぎりを持って出かけ、バッタをとったりれんげを編んだ記憶があります。
今でもこの奥に、何かが待っていそうな気がしませんか?


警視庁景観またもう一つの気持ちの良い景観は、旧文部省前から新橋方向に渡る横断歩道途中の中央分離帯(もしくは車)から、桜田門方向を望んだ(もしくは向かった)場合です。写真左手前は財務省、その次小さく見える建物は外務省、次の高い建物が合同庁舎で、その次が警視庁です。新旧の低層や高層の大きな建物がゆったりと混合し、道幅も大きく拡がったことで従来にないダイナミックなパースペクティブがうまれました。夕方から夜にも、スポット光が効果的なきれいな景観が楽しめます。


外務省景観こちらは、上で紹介した財務省と外務省の間の坂道を望んだところです。まん中の並木の中程上に、街路灯の先と並んで尖った部分が見えますが、これが国会議事堂です。ここも平日の車の多さ以外は子供の時と殆ど変わらない光景で、こんなに幅広い美しい並木のパースペクティブでしかも短いのに、上った先にあるものが見えず、時間が停まったような空間感を味わうことができます。やはり昔の建物は低層なので、広大な空が望めることも大きいでしょう。
ちなみにこの坂道を撮影している時、背にしているのが、日比谷公会堂前の道です。

では次回は、いったん虎の門交差点に戻って、桜田門と正反対の神谷町、東京タワー方向に進んでみましょう。またこの近辺で何か情報や御意見をお持ちの方、ぜひメールをお送りください。

(2002.1)



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